従業員が退職した際の手続きと対応

 従業員の退職が決まると、企業にとって多くの手続きが必要になってきます。退職者の今後の仕事や人生に必要な手続きもあり、間違えたり遅れたりすると退職した従業員に迷惑がかかることにもなります。期限を守り、抜け漏れがないように迅速かつ適正な対応が求められます。そこで今回は、従業員が退職する際の手続きや対応についての基礎知識について整理してみましょう。

1.退職時に渡すべきもの

・年金手帳

 会社側が年金手帳を保管している場合、退職時に本人へ返却します。国民年金の種別変更する際や転職先でも同じものを使用しますので、忘れずに返却しましょう。
(年金手帳を紛失してしまった場合には、社会保険事務所で再発行してもらえます。)

・雇用保険被保険者証

 「雇用保険被保険者証」とは、雇用保険に加入した際にハローワークから発行される証明書で、雇用保険に加入していることを証明するものです。原則本人に交付するものとなっていますが、紛失防止のため会社側で保管するケースも多くみられます。転職先で雇用保険の引継ぎに必要な書類ですので、会社側で保管している場合は、返却しましょう。
(雇用保険被保険者証を紛失してしまった場合は、ハローワークで再発行してもらえます。)

・離職票

 「離職票」とは、離職したことを証明する公的な文書で、退職後に失業給付金・失業手当の受給手続きをする際に退職者自身がハローワークに提出する書類です。「離職票」は会社ではなくハローワークが発行する書類です。発行には、会社がハローワークに必要書類を提出し、ハローワークから会社に離職票が交付されたら、会社が退職者に送付するという手順が必要です。会社によって、退職者に離職票の発行有無を聞く、退職者全員に発行する、退職者から希望がなければ特に発行しないなど、対応方法はさまざまですが、退職者が希望する場合は渡してあげましょう。

・退職証明書

 「退職証明書」とは、会社を退職した事実を証明する書類で、退職者から申請があった場合、会社は必ず発行しなければなりません。退職者の申請を拒否したり理由なく遅延したりすることは労働基準法違反として30万円以下の罰則に処されますので、注意が必要です。
「退職証明書」には決まった様式はありませんが、厚生労働省のホームページでモデル様式が公開されております。

・健康保険被保険者資格喪失確認通知書

 「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」の提出により発行される書類です。
退職者から国民健康保険への加入のため使用したい申し出があればコピーを渡します。(発行までに時間がかかる場合、各市町村様式による「健康保険・厚生年金資格喪失証明書」を渡す場合もあります。)通常は、雇用保険の喪失に関する書類(離職票)などを使用するため、基本的には従業員に渡すことはありません。

・源泉徴収票

 会社が退職者に対して発行する源泉徴収票には、「給与所得の源泉徴収票」と「退職所得の源泉徴収票」の2種類あり、退職日から1カ月以内に行わなければいけません。
 「給与所得の源泉徴収票」とは、給与として支払われている所得に関わる金額が記載されている書類です。1月1日から退職日までに支払っている賞与を含めた給与総額、社会保険料や所得税額なども記されます。また、退職手当の支給があった場合に発行するのが「退職所得の源泉徴収票」です。

2.退職時に回収するもの

・健康保険被保険者証

 健康保険証は退職者本人だけでなく、退職者が扶養している家族の分も返却してもらいます。会社側では、返却された健康保険証は「資格喪失届」と同時に年金事務所へ返却します。

・退職所得の受給に関する申告書

 退職金が支払われる場合、「退職所得の受給に関する申告書」に必要事項を本人が記入し、退職金支給日までに提出してもらわなければなりません。本人から提出された申告書の内容に従い税額計算をした上で退職金の支給を行います。
 また、この申告書は会社が受理した時点で税務署に提出したとみなされるため、税務署長から提出を求められた場合を除き、退職金の支払者が保管することとなっています。

・社員証やIDカードなどの身分証明書

 社員の身分の証明につながる社員証・IDカード・社章などを発行している場合は返却してもらいます。また、名刺もご自分のものはもちろん、仕事上で得た取引先の名刺等も返却してもらいます。

・会社からの貸与物

 制服、作業着、パソコン、携帯、事務用品、文房具、定期券、雑誌や書籍、印鑑など会社から貸与している物はすべて返却してもらいます。

・作成・収集した各種資料やデータ

 調査報告書、企画書、図面など本人が作成したものであっても、業務上の機密を持ち帰るとトラブルになりかねないため返却対象として会社に返却してもらいます。

3.雇用保険の手続き

 「雇用保険被保険者資格喪失届」を退職した日の翌日から10日以内に事業所を管轄するハローワークに提出します。退職者が離職票を希望した場合は「雇用保険被保険者離職証明書」も同時に提出します。「雇用保険被保険者離職証明書」は退職前に記載内容を本人に確認してもらい、署名した上で提出となります。離職票の交付を必要としない場合には、提出は不要です。ただし、退職者が59歳以上の場合には、離職票の交付が義務付けられていますので、希望の有無にかかわらず届出を行います。

注意点:退職者本人の記名押印が必要な箇所があります。退職前に作成し記名押印してもらえるようにしましょう。また、退職理由についても確認しておく必要があります。

4.社会保険(健康保険・厚生年金)の手続き

 「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届」を退職した日の翌日から5日以内に事業所を管轄する年金事務所へ提出します。添付書類として、健康保険被保険者証を扶養家族分も含めて提出しなければなりません。紛失等により本人から回収できない場合は、資格喪失届にその理由を付記するか、「健康保険被保険者証回収不能・滅失届」を添付して対応します。
 健康保険と厚生年金は、退職日の翌日が資格喪失日となり、資格喪失日の前月まで保険料が発生しますので、退職日と給料計算の締め日によっては最後の給与から2ヶ月分の保険料を控除することあるので注意が必要です。

5.住民税の手続き

 住民税を特別徴収(給与から差し引いている場合)している場合、退職に伴い徴収方法の変更が必要となります。退職日を含む月の翌月10日までに「給与支払報告に係る給与所得異動届」を住所がある市区町村に提出します。なお、提出期限は市区町村によって異なる場合がございますので確認が必要です。提出がない場合は、特別徴収義務が継続したままとなり、督促状が送付されることもあるので必ず提出しましょう。

6.まとめ

従業員が退職した際の手続きと対応について整理します。

  1. 雇用保険、社会保険、住民税に関する手続きをする。
  2. 年金手帳や離職票、雇用保険被保険者証、源泉徴収票など書類を渡す。
  3. 健康保険証、身分証明、退職所得の申告書、貸与物、データなどを返してもらう。

以上のことを、退職時には忘れないようにしましょう。
退職手続きは複雑で多岐にわたりますが、会社が退職者に対してしてあげられる最後のことかもしれません。退職者から感謝されるよう寄り添って進めていきたいものです。

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