目次
1 .法人成りするメリット
(1)給与所得控除で所得税を節税できる
法人成りをすると、会社から社長自身に給与を支払うことができます。そして、この給与には「給与所得控除」があります。
給与所得には必要経費などの控除がありませんので、それに類するものとして給与所得控除という控除枠が設けられています。
(2)消費税の納付を最長2年間免除される
消費税を納付するべきか否かは、2年前の売上高が基準となります。法人成りをした年と翌年は、その2年前は事業がありませんので、消費税が免税となります。
ただし、開業直後の6ヶ月間の売上と役員報酬など含む給与額がいずれも1,000万円を超えると、2期目から消費税が課税されます。
(3)退職金制度
個人事業主は何年経っても退職金をもらうことはできませんが、会社では退職金制度を設けることができます。
この退職金にも所得税がかかりますが、給与とは別に優遇措置が設けられているので、80万円以上なら全額を控除することができるので税金はかかりません。
勤続年数が20年以下の場合には、40万円に勤続年数を掛けた金額を退職金から控除できます。それに加えて20年以上なら超えた年数に70万円を掛けた金額を退職金から控除できます。
(4)生命保険を活用して節税できる
個人事業主が生命保険料を支払っても経費とすることはできず、最大12万円の所得控除しか受けられません。しかし、法人の場合、従業員を被保険者、受取人を法人として、生命保険を法人契約すると、その保険料が法人の経費となります。
(5)赤字を9年間繰越ができる
その年度の収支が赤字の場合、その赤字額を翌年度以降に繰越すことができます。
法人の場合は、9年間繰り越すことができますが、個人の場合は3年間です。
さらに、この繰越は国税と地方税の両方に適用されます。
(6)社会的信用度が上がる
個人事業主と比較すると、法人は社会的な信用が高く、補助金や助成金の申請がしやすいという面があります。
また、金融機関からの借入をする際も、審査が通りやすくなります。
さらには、法人成りすると、個人事業主としては信用がなく仕事を受けることができなかった企業から、信用がつくことで仕事を受注うできるようになることもあります。法人成りによって社会的信用度が上がることで事業をスケールする可能性の幅は大きく広がります。
2.法人成りするデメリット
(1)設立費用がかかる
株式会社を設立する場合には、定款を作成して認証を受け、登録免許税などを支払って登記しなければなりません。この設立費用には25万円程度かかります。
(2)赤字でも法人住民税の均等割りは支払義務がある
法人の場合、たとえ事業で得た収支が赤字であっても法人住民税の均等割がかかります。
均等割の金額は自治体によって異なりますが、年間7万円の支払いをすることになります。
(3)社会保険の加入義務がある
法人成りをすることによって、健康保険料と厚生年金保険料の納付が必要になります。社会保険に未加入のまま法人で事業を営むことはできません。
さらに従業員を雇用することになれば、保険料の支払いは大きな支出になります。
(4)事務的な負担が増える
個人事業主の経理作業はそれほど難しくはありませんし、取引の数がそれほど多くなければ自分で確定申告をすることも十分可能です。
しかし、法人の場合には、作成書類が増えますし計算も煩雑になるので、税理士に依頼しなければ決算・申告を行うことは難しくなります。
法人税申告書などの作成を税理士に頼むことで金銭的なコストもかかります。
3.法人成りのベストなタイミング
法人成りのタイミングは「所得が800万円を超えたタイミング」が好ましいと言えます。その理由は、個人事業を行う上でかかる所得税額が800万円を超えると法人税率が下回るからです。
《所得税の算出方法》 課税所得金額×税率-控除額=所得税額
《法人税の算出方法》 税引前当期純利益×税率=法人税額
税引前当期純利益 | 事業開始 2016年4月1日以降 | 事業開始 2018年4月1日以降 |
年800万円以下 | 15% | 15% |
年800万円以上 | 23.4% | 23.2% |
《個人事業主と法人の税金支払い額の比較》
課税対象金額 | 所得税 | 法人税 |
700万 | 98万円 | 105万円 |
800万円 | 120万4,000円 | 120万円 |
900万円 | 143万4,000円 | 143万2,000円 |
このように課税対象金額が800万円を超えたあたりから所得税より法人税の方がお得になります。
ただし、利益に波がある場合には、個人事業主のままでもう少し様子を見たほうが得策であるケースもあります。
個人事業主のままで事業を続けるか、法人成りするべきかは、個々の状況によって異なりますので、法人成りするタイミングも含めて慎重に検討することが必要になります。